「ご家族からいびきをかいている、あるいは呼吸が止まっている時間があると言われた」「夜しっかり寝ているのに日中の眠気が強い」「朝起きた時に頭痛がする」「血圧の薬を飲んでいるのにいまいち効果が得られない」こんな症状ありませんか?
一見無関係に思われるこれらの症状ですが、実は共通点があります。それが、睡眠時無呼吸症候群(以下、SAS)が潜んでいる可能性があるということ。2003年に新幹線の運転士による居眠り運転が発覚したのを契機に、国内でもSASの検査や治療の必要性が認識され始め、治療を必要とされる患者数は年々増加しています。
2019年~2022年時点で、国内の潜在患者数は約940万人、そのうち治療されている方は約64万人とされています。つまり、まだまだ未治療や罹患を自覚していない方が大多数といえます。
ちなみに、SASの中にも種類があります。大きく分けると「閉塞性SAS」と「中枢性SAS」。閉塞性SASは、何らかの原因で気道が狭窄・閉塞した結果低呼吸や無呼吸が生じる状態。つまり、空気の通り道の途中に障害があるものの、脳からは呼吸しようという指令が出ている為、いびきを伴います。
それに対し、中枢性SASは気道は正常に開通しているのですが、脳からの呼吸指令自体に異常が生じ、低呼吸や無呼吸が起きています。呼吸そのものが止まったり浅くなったりしている為、いびきは伴いません。中枢性SASの方はSAS全体の数%と言われている為、今回は患者数の多い閉塞性SASに焦点を当ててお話していきたいと思います。
いびきをかくくらい普通でしょと軽く捉えられがちですが、SASに罹患していると、良質な睡眠がとれず、日中の活動性やパフォーマンスの低下はもちろん、高血圧や心疾患、脳血管疾患や糖尿病など全身の臓器に関わる疾患を高率に併発し、健康寿命や生命予後にも影響が出ることがわかっています。つまり早く検査し適切な治療をすることが、今後の生活に直結するといっても過言ではないのです。
ただ、何せ睡眠中の出来事なので、なかなか自覚するのが難しいという問題もあります。今回は、起きているときにも気づけるチェックポイントも記載していきます。ご自身の睡眠の状態を振り返るきっかけや参考になれば幸いです。
いびきの原因とは?
一口にいびきと言っても、原因は様々です。肥満や骨格、ホルモンバランスの変化、扁桃肥大など身体的要因によるもの、疲労や日常的な口呼吸、飲酒、喫煙、睡眠薬、アレルギーなど環境要因によるものがありますが、いずれも何らかの原因で気道(空気の通り道)が狭くなったり閉塞したりすることで、いびきとして症状が現れます。
それぞれ原因を解説していきましょう。
【肥満】
太っている方の場合、喉についた脂肪で気道が圧迫されて狭くなることで、いびきをかきやすくなります。
【骨格】
下顎が小さい方や歯並びが良くない方は、下顎が奥に引っ込みやすいと言われています。そのような骨格の方は、寝ている間に舌が喉の奥に落ち込みやすく、気道を閉塞しやすくなります。
【ホルモンバランスの変化】
一般的にいびきは中年以降の男性に多く見られますが、女性の場合は閉経後に多くなります。女性ホルモンの一つであるプロゲステロンは呼吸中枢を刺激したり上気道の筋肉を収縮させて気道を広げたりする働きがありますが、閉経に伴い女性ホルモンの分泌が減少するためです。
【扁桃肥大】
風邪をひいたときに「扁桃腺が腫れている」という言葉を聞いたことがある方も多いと思いますが、扁桃腺という場所は喉の奥の気道に近い位置にあります。風邪や慢性的な炎症により扁桃腺が腫れていると、腫れた扁桃腺により気道が圧迫されて狭くなり、いびきにつながることがあります。
【疲労】
疲労が蓄積されることで、睡眠中に筋肉が緩んで舌が喉に落ち込み、気道をふさぎやすくなります。
【日常的な口呼吸】
口呼吸の状態では、下顎が奥に引っ込みやすくなります。日常的に口呼吸を続けていることでその状態が普通になり、引っ込んだ下顎が上気道を圧迫することで気道が狭くなります。
【飲酒】
アルコールの過剰摂取により睡眠中に筋肉が緩み、舌が喉に落ち込み、気道をふさぎやすくなります。
【睡眠薬】
睡眠薬の中には筋肉の緊張を和らげるものが多くあります。全身の緊張緩和に伴い舌の筋肉も緩むことで喉に落ち込みやすくなり、気道が狭くなることでいびきの原因になることがあります。
【アレルギー】
アレルギーは粘膜のむくみを引き起こします。アレルギーによって鼻や喉の粘膜がむくむことで、気道が狭くなりいびきが引き起こされることがあります。
【喫煙】
喫煙は血中の酸素濃度を低下させ、咽喉頭部の炎症を起こし、SASを悪化させる原因となります。
これらの原因が単発で起こることもあれば、複数の原因が重なっていびきにつながることもあります。当然、原因によって対策も異なりますが、慢性的に大きないびきをかいたり呼吸が止まるようであれば睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。
どんな症状が出るの?
睡眠中に10秒以上呼吸が止まることを「無呼吸」といい、呼吸が浅くなることを「低呼吸」といいます。SASの定義は、一晩(7時間)の睡眠中に10秒以上の無呼吸が30回以上起こるか、睡眠1時間当たりの無呼吸や低呼吸が5回以上の場合をいいます。また睡眠1時間当たりの無呼吸と低呼吸の合計をAHI(無呼吸低呼吸指数)と呼び、この指数によって重症度を分類します。
SASの主な症状としては、眠っているときは「いびきをかく」「息が止まる」「呼吸が乱れる」「息が苦しくて目が覚める」「夜中に何度も目を覚まし、トイレに行く」。日中起きているときは「強い眠気を感じる」「しばしば居眠りをする」「午前中に頭痛を感じる」「記憶力や集中力が低下する」「だるい」「疲れが取れない」といったものが挙げられます。
呼吸には身体に必要な酸素の取り込みと身体に不要な二酸化炭素の排出というガス交換の役割があります。冒頭でもお伝えした通り、SASによる慢性的なガス交換不足は、生活習慣病と密接な関係があり、様々な合併症を高率に引き起こすことが報告されています。
そのリスクは、例えば糖尿病は健常者に比べ約1.5倍、高血圧は約2倍、不整脈や虚血性心疾患、心不全といった心疾患は約3倍、脳梗塞や脳出血などの脳血管疾患では約4倍。さらに、SASを罹患している場合、交通事故の発生率はなんと約7倍と報告されています。
いびきをはじめとした身近な症状でも実は命にかかわる病気が隠れている可能性がある、またはそのような病気にかかるリスクが潜んでいることがおわかりいただけたと思います。
では、前述の症状に該当する方、ちょっと不安になった方は今後どうしたらいいのでしょうか?ここからは具体的な検査や治療についてのお話です。
検査や治療にはどんなものがあるの?
保険での治療をご希望の場合の当院での治療までの流れをお話します。
【問診】
前述の症状でお悩みやご不安をお持ちの方は、まず問診が必要となります。
当院のご受診をご希望の場合、予約なしでも診察可能ですが、よりスムーズにご受診いただく為ご予約いただくことをお勧めします。
【ご自宅での簡易検査】
診察後、当院より治療機器の管理会社へ連絡します。数日後、管理会社より患者様へ電話連絡が入り、簡易検査の機器が郵送されます。
お手元に検査機器が届いたら、機器を装着していつも通り眠るだけ。機器の取り付けも簡単でどなたでもお使いいただけます。
検査終了後は管理会社へ機器を返送してください。検査会社でデータを解析後、当院へ検査結果が共有されます。
簡易検査では、患者様の睡眠中の呼吸状態や血中酸素飽和度などを測定し、低呼吸や無呼吸の有無や頻度を評価します。
※ご自宅での簡易検査の結果、正確な判定が難しい場合は、短期入院での精密検査が必要となることもあります。
【治療】
検査3~4週間後に結果説明の為ご来院いただきます。SASと診断された場合は治療方針をご相談の上、医師から必要な治療をご提案いたします。
必要と判断された場合は、後日管理会社から治療機器(CPAP)が郵送されます。
使用状況のデータは管理会社よりリアルタイムで共有されます。
CPAP使用開始後は定期的に通院していただき、使用状況や体調の変化等を確認しながら上手に付き合っていけるようサポートしていきます。
CPAPは、持続陽圧呼吸療法といい、就寝時に装着することで鼻から空気を送りこみ、狭窄・閉塞した気道を開通させる治療機器です。睡眠中の呼吸をサポートすることで、睡眠中の酸素不足を解消し、睡眠の質を向上させることができます。治療を続けることで、SASが関連する先述の合併症も予防できるといわれています。
CPAPを使うと、ほとんどの方が使用開始当日からいびきをかかなくなり、朝起きた時の体調の変化を実感できると言われています。朝はすっきり、昼間の眠気も軽減され、完全に消えることもあります。
また重症のSAS患者様では、正しく継続して使用できれば、合併症の予防・改善や交通事故リスクの軽減がみられ、CPAPを使用しなかった患者様より長生きすることもわかっています。
【その他の治療法】
①生活習慣の改善
・減量
肥満が原因となっている場合は、減量により症状が改善することがあります。
ただし重症のSASの場合は日中眠くなってしまうことで活動量が減り、減量が難しい場合があります。そのような場合は、CPAP等別の治療と併行して減量を行うことをおすすめします。
・仰向けではなく横向きで寝る。
仰向けで寝ると、重力で舌が喉に落ち込み、気道が閉塞しやすくなります。
・就寝前のアルコール量を控える。
・禁煙
②マウスピースの使用
下顎を前方に固定することで、空気の通り道を開くことができます。
当院では徒歩数分の場所にある大津歯科医院と医療連携を行っています。必要な場合は紹介も可能ですのでご相談下さい。
③外科的手術
気道閉塞の原因がアデノイドや扁桃肥大の場合は、原因となっている部分を切除することで症状が緩和されることがあります。
検査や治療にはどれくらいお金がかかるの?
長期的な治療になることが多いSAS、経済的な負担も気になるところかと思います。
ここでは、代表的な治療方法であるCPAP使用時の費用をご紹介します。
簡易検査費用 | 月々の管理費用 (治療機材レンタル料含む) | 初月合計金額 | |
3割負担 | 2,700円 | 3,930円 | 6,630円 |
2割負担 | 1,800円 | 2,620円 | 4,420円 |
1割負担 | 900円 | 1,310円 | 2,210円 |
※簡易検査は初回のみの為、簡易検査と治療開始が同じ月の場合は初月のみ右側の合計金額のご負担となります。
例えば、6月1日に簡易検査を実施し、7月1日からCPAP導入となった場合等はその限りではありません。それ以降は月々の管理費用+受診時の再診料等のご負担となります。
よくある質問Q&A
ここまで、SASやCPAPについて一般的なお話をしてきました。
ここで、これから治療を始める患者様や治療中の患者様からよく聞かれる質問にお応えしていきたいと思います。
Q1.CPAPは一度始めるとやめられないのですか?
A1.そんなことはありません。SASの原因によりますが、卒業することも可能です。基本的には、SASの重症度が低下し、自覚症状が消失したときが卒業のタイミングです。
例えば肥満が原因の場合、やせることで症状が改善されることがあります。またアデノイド等手術で原因が取り除けた場合も、SAS症状が解消されればCPAP卒業が可能なことがあります。
卒業前には必ず検査を行い、症状の評価が必要になります。症状がある状態で自己判断で治療を中断した場合、日中の眠気等QOLの低下や、先述の合併症リスクが残ってしまう為注意が必要です。
Q2.風が強く息が苦しい、呼吸ができない感じがします。どうしたら良いですか?
A2.CPAPは狭くなった気道に強い風を送り込むことで強制的に気道を開通させる為の機械です。使い始めてしばらくは、CPAPの圧に慣れておらず苦しく感じてしまう事があります。
まずは短い時間でも良いので毎日継続使用をして圧に慣れていきましょう。また、肩が動くような一生懸命な呼吸ではなく、自然でゆっくりとした呼吸をしていただくのがコツです。
Q3. 寝ている間にマスクを外してしまい長時間使用ができません。どうしたら良いですか?
A3.まだCPAPやマスクに慣れておらず、違和感を覚えることが原因でマスクを外していると考えられます。
まずは毎日の継続使用によりCPAPとマスクに慣れていきましょう。しばらく使用しても違和感が強くて睡眠に支障が出るようであれば、マスクの変更等をご検討いただくのも有効かもしれません。毎月の受診の際に、ご使用状況を確認しながら一つずつ解決していきましょう。
Q4.口がとても渇いたり、粘り気の強い痰がでる。改善策はありますか?
A4.CPAPご使用中に口が開いていることが原因で症状が出ていることが考えられます。市販の開口を防ぐテープ等の使用をお勧めします。また、乾燥が原因の場合はCPAP用の加温加湿器のご使用も効果的です。
Q5.花粉症の時期になると鼻づまりがひどく、鼻で息ができません。どうしたら良いですか?
A5.CPAPには様々なタイプのマスクがありますが、基本的には鼻からの呼吸に合わせたものが多いです。鼻炎等で鼻呼吸が難しい場合は、鼻炎薬を内服することで症状の改善を図ります。
まとめ
いかがでしたでしょうか?今回は、身近な睡眠に潜む重大なリスク「いびき」に焦点を当ててお話させていただきました。たかがいびき、されどいびき。特に働く世代に多い疾患ということもあり、日中のパフォーマンスや将来のリスクを考えると決して軽く考えられるものではありません。
人は人生の3分の1の時間を睡眠に費やしています。少しでも心当たりのある方は、ご自身の睡眠の状態を振り返ってみませんか?