咳に悩まされた経験がある方は多いのではないでしょうか?
新型コロナウィルスの流行、最近ではマイコプラズマの流行など、急激に咳に対する世の中の警戒感が高まったように見受けられますが、咳という症状自体は風邪などでも起きる身近な症状だと思います。
そんな身近な症状だけに、どこまで様子を見ていいものか、気を付けなければいけない咳はどんなものか、判断に迷われる方も多いのではないでしょうか?
実際、診療をしていると「風邪の症状は治っているのにを咳だけがずっと続いている」「特にきっかけはないけど最近よく咳が出る」「夜中咳で眠れない」「会話すると咳が出るので人と会ったり人混みで人の目が気になる、仕事に支障が出る」という方は少なくありません。
また咳という一般的な症状だけに、何科にかかるのがいいのか、まず治療の入口に迷われるという声もお聞きします。
中には何年も症状を抱えたまま受診できず、ようやく受診されたというケースも。
確かに、咳という症状は一緒ですが、その原因や治療法は非常に幅広く、みんな同じ治療で治せるわけではありません。
感染する可能性があるものもないものももちろんあります。
だからこそ、お困りの方も多いのでしょう。
今回はそんな咳という症状に焦点を当て、詳しく解説していきたいと思います。
長引く咳の原因は?
一般的に、3週間以内の咳を「急性咳嗽(がいそう)」、3~8週間の咳を「遷延性咳嗽」、8週間以上持続する咳を「慢性咳嗽」といいます。
急性咳嗽の多くは風邪など細菌やウイルス感染による炎症が原因とされます。
咳の他に、発熱したり喉の痛み、鼻水や鼻づまりを伴うことが多いので、一般的に風邪と認識される方は多いでしょう。
この場合は安静にしていれば他の症状と共に改善していくことが多いです。
3週間程度は症状が残ることがありますが、急いで医療機関を受診される必要はありません。
もちろん医療機関を受診することで対症療法(各症状に合わせた治療)はご提案できるので、症状がつらい場合はご受診ください。
8週間を過ぎても治まらない場合は別の原因を考える必要があります。
もちろん原因によって治療方針も変わってくるため、長引く咳はしっかりと原因を見極める必要があります。
慢性咳嗽の原因は喘息や咳喘息(慢性気管支炎)をはじめ、細菌性肺炎や肺結核などの呼吸器感染症、花粉やハウスダストをはじめとしたアレルギーが原因のものやアトピー性など免疫が関係するもの、
間質性肺炎、他の疾患を治療するために服用している薬による副作用、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や肺がん、胃食道逆流症や副鼻腔気管支症候群、心不全など別の臓器の疾患が原因となるもの、特定の状況や強いストレスが原因で起こる心因性咳嗽など多岐にわたります。
幼少期に喘息だった方や、これまで喘息と指摘されたことのない方でも、大人になってから喘息になるというケースもあります。
喘息は慢性的に気道の炎症を繰り返す病気です。長い目でみた治療や症状のコントロールが必要であり、しっかりと検査して診断をつけ、通常の咳の治療とは分けて考えた方がいいでしょう。
最近では風邪やコロナ感染後しばらく経っても咳症状が治まらないと受診されることも多くなっていますが、感染をきっかけに慢性咳嗽に移行する、または元々持っていた疾患が増悪することもあります。
風邪をひくといつも咳症状だけが長く残る。いつもはすぐ治るのに、今回はなかなか治らないという方は、体質や他の疾患が隠れている可能性も考えられます。一度ご受診をお勧めします。
何科にかかればいいの?
お話した通り、咳の原因は多岐にわたります。
原因が違えばもちろん診療科も異なります。当院は呼吸器内科を扱っている為、咳でお困りの患者様が日常的に来院されますが、喘息や咳喘息が原因の方もいれば肺炎が原因の方、COPDが原因の方、逆流性食道炎が原因の方、心不全が原因の方、副鼻腔炎が原因の方など様々です。
「咳」という症状自体は確かに呼吸器科の専門領域ですが、全ての咳が当院の専門ではないというのもまた事実。
別の医療機関で処方された薬を飲んでもなかなか症状が治まらないとお悩みの患者様が多いように、「内科」であればどこでも専門的な治療ができるわけではありません。
実際当院でも、咳を主訴に受診された患者様が、検査をした結果心不全が見つかり循環器科での治療をご紹介したというケースもあります。
餅は餅屋。医療は専門性が非常に重要です。副鼻腔炎が原因であれば耳鼻咽喉科、心不全が原因であれば循環器科、逆流性食道炎が原因であれば消化器内科が専門です。
とはいえ、それではとご自身で原因が判断できれば苦労はしないでしょう。
そんな時は、まず入口として呼吸器内科を受診してみてください。
当院では必要な検査を行った上で、咳の治療の為には別の診療科での治療が必要と判断した場合には適切な診療科をご紹介します。
受診の際のポイントをお伝えします。
医療機関では、たくさんの疾患の候補の中から問診や検査によって正しい原因を探ります。
正しい原因を見つけるにはより多くのヒントが必要です。
例えば「いつ頃から咳が出始めたか」「きっかけは何か」「咳が出るタイミングや状況は一定か(日中出やすい、夜出やすいなど)」「熱など他に症状はあるか」「痰は絡むか/どんな色か」「息苦しさはあるか」「喫煙歴」「アレルギーはあるか」などなど。
いざ問診の時に思い出そうとすると、忘れてしまうこともあるかと思います。
ご受診前に一度症状を整理したりメモしておいたりすると、診察の際に役に立つと思います。
治療は?
先にお伝えした通り、一口に「咳」といっても原因は様々。
原因が違えばもちろん治療法も異なります。
純粋に症状を抑える咳止めを処方する場合もあれば、空気の通り道である気道の炎症を抑える薬が必要な場合、感染が疑われれば細菌やウイルスに対する抗生剤や抗ウイルス薬を処方する場合や、
アレルギー性咳嗽の場合はアレルゲンを遠ざけるような生活改善を提案する場合、薬剤性の場合は原因と考えられる薬を休薬したり、他の疾患の治療を優先する場合など様々です。
まず、風邪やインフルエンザなどの細菌・ウイルス感染による急性咳嗽に関しては、他の症状の改善と共に自然に治まることがほとんどです。日常生活に支障がないくらいの軽い咳であれば心配ありません。
適度に加湿し、よく休んで体力を回復させましょう。
加湿器やマスクの着用、のど飴やトローチを使用したり、こまめにうがいをするのもおすすめです。
息苦しく日常生活に支障が出るほどの咳が続くときや、夜眠れないほど激しい咳の時は、咳止めで症状を緩和します。
感染症の場合も、インフルエンザや肺炎、肺結核など一部検査により原因となる病原体がはっきりしている場合には、それに応じた抗菌薬や抗ウイルス薬を使って治療が可能です。
咳の他に、感染による付随した症状(発熱や咽頭痛、倦怠感など)がつらい場合は受診をお勧めします。
慢性咳嗽には咳止めで症状を緩和させることよりも、何が原因で咳が続いているかの診断が大切となります。
原因を治す根本治療が必要です。
喘息発作の咳には咳止めよりも気道の炎症を抑え発作を抑える、または発作を繰り返さない状態を維持する為の吸入薬を使用したり、生活環境を改善・工夫することが必要となります。
同じようにCOPDによる咳の場合には気道を広げたり炎症を抑える為の薬物治療、また症状をコントロールするために禁煙も強くお勧めします。
逆流性食道炎からくる咳であれば、咳止めは効きません。代わりに胃酸をおさえる薬が治療薬となります。
このように、咳が長引くときは市販のかぜ薬や咳止めで対症療法をせず、原因を突き止め原因に対する根本的な治療が大切です。特に喘息が原因の場合、市販のかぜ薬や一部の処方薬に含まれる咳止めの成分(コデイン)で喘息発作が悪くなったり、安易に解熱鎮痛剤(アスピリン、ロキソプロフェン等)を使用することで喘息発作を誘発する恐れがある為注意が必要です。
幼少期に喘息をお持ちだった方や長引く咳は、自己判断で放置せず、受診をして原因に応じて適切な治療をすることが大切です。
喘息やCOPDなど慢性呼吸器疾患の場合は、長期的に治療を行う必要があります。禁煙はマストです。
定期的な通院や服薬はもちろんですが、日常生活での自己管理も行い、症状をコントロールすることが大切です。
肺がんの場合はがんの種類や進行度に合わせて、手術や薬物療法、放射線治療などを組み合わせて行います。肺がんが疑われる場合には、まずCTなどの精密検査が必要となります。
まとめ
慢性咳嗽は咳が続くことで仕事や学業に専念できなくなったり、周りの目が気になって外出自体が困難になる「社会生活や労働生産性の低下」、咳自体による体力の消耗や場合によっては肋骨骨折による痛み、呼吸困難など「身体的負荷」、夜間咳が続くことで眠れなかったり途中で目が覚めてしまい睡眠の質が低下する「睡眠障害」、
いつまで続くかわからない症状によってストレスや疲労が蓄積されたり日常生活が制限されてしまうことによる「抑うつや不安」、今までのような社会生活が継続できなくなることによる「経済的な負担」など、日常生活において様々な影響を及ぼすことが報告されています。
また急性咳嗽と違い、感染が落ち着けば症状も治まるというわけではない為、様子を見ていれば自然に治まるとも限りません。
原因を見極め、適切に治療・コントロールすることが大切とされています。
たかが咳、されど咳。
咳はよくある症状と思われがちですが、持続すると思った以上に体力的にも精神的にも消耗する症状です。実際1回の咳で3~5kcal消費すると言われているほど、咳は体力を消耗する症状です。我慢せず、一度ご相談下さい。