「ピロリ菌」聞いたことがあるでしょうか?
名前だけ聞くとなんだかかわいらしい印象を受けそうな響きですが、実はこのピロリ菌、とても厄介な菌なんです。
正式名称は「ヘリコバクター・ピロリ菌」。胃の粘膜に住む細菌で、この細菌がいることで様々な疾患のリスクが上がります。
胃は食べたものを溶かし消化しやすい状態にするため、強い酸性の胃液が分泌されています。この強力な酸性の性質の為、細菌やウイルス等の病原菌は胃の中で生き続けることができないと言われていました。
ところがその常識を覆したのがこのピロリ菌の存在でした。
ピロリ菌はウレアーゼという酵素を持ち、自身の周りにアンモニアというアルカリ性の成分を作ります。
このアンモニアで胃酸を中和することで、酸性の胃の中で生き続けることができるということがわかりました。
ピロリ菌はどのように感染するの?
基本的には経口感染です。何らかの原因でピロリ菌が口から侵入し、そのまま定着してしまうことが原因とされています。
特に、ピロリ菌の感染率は乳幼児期の衛生環境が関係していると考えられています。それはこの時期胃酸の酸性度が低く、胃酸自体の分泌量も少ないからと言われています。幼少期の胃はピロリ菌が住み着きやすい環境が整っているのですね。
ただ、昔に比べるとピロリ菌の感染率は劇的に少なくなっています。それは国内の上下水道が整ってきたことと比例しています。昔は井戸水をそのまま飲んだり、下水設備が整わないことで糞口感染が大部分でした。現在は上下水道設備も整い、日本で一般的な生活をする限り、外的環境からの感染率は非常に低いと考えられます。
また乳幼児期の育児として、親や祖父母が一度かみ砕いたものを子どもに食べさせることも多く、そこでピロリ菌の家庭内感染が多かったとも言われています。こちらも近年では虫歯予防などの観点から親がかみ砕いたものを与えることも少なくなり、同じように幼少期のピロリ菌感染率の低下につながっています。
このような環境の変化から、年齢で言うと40代未満と50代以降で感染率に大きな差がみられます。
ただ、それでも食器の共用などから家庭内感染の可能性はゼロではありません。特に親御様がピロリ菌感染していた場合は、お子様もある程度の年齢になったら一度検査をされることをお勧めします。
ピロリ菌の検査は?
ピロリ菌の検査は大きく分けて「胃カメラを使用する方法」と「胃カメラを使用しない方法」の2通りあります。
■胃カメラを使用する方法
胃カメラ検査時に胃の組織を一部採取し、下記のいずれかの方法で検査します。
・迅速ウレアーゼ試験:ピロリ菌は胃の中で生きていく為にウレアーゼという酵素を出します。つまり、ウレアーゼの反応がある=ピロリ菌がいるという考え方ができます。それを調べる為、特別な試薬と胃カメラ時に採取した組織を反応させ、ピロリ菌の有無を調べます。
・組織鏡検法:胃カメラ時に採取した組織を顕微鏡で観察することで、ピロリ菌がいるかどうか直接確認する方法です。
・培養法:胃カメラ時に採取した組織をピロリ菌が発育しやすい環境で一定期間培養(育てる)し、ピロリ菌の有無を確認する方法です。
・核酸増幅法:胃カメラ時に採取した胃液からピロリ菌のDNAを検出する方法です。
※胃カメラを使用した場合、直接胃の粘膜を観察することで、ピロリ菌の有無やピロリ菌による胃炎の程度、その他病変の有無を確認することが可能です。
■胃カメラを使用しない方法
・尿素呼気試験:診断薬を内服し、内服前後の息を採取してピロリ菌の有無を確認する方法です。
・抗体測定法(血液・尿):血液や尿からピロリ菌に対する抗体の有無を確認します。血液検査は胃がん検診でも活用されています。
・便中抗体測定法:便中のピロリ菌に対する抗体の有無を確認します。
※検査方法によって精度の差があります。ピロリ菌の検査は複数の検査結果を組み合わせて正確な診断となります。
当院では、ピロリ菌の有無と胃炎の程度まで確認できる胃カメラと血液抗体測定検査のセット、または便中抗体測定法による判定を推奨しております。
ピロリ菌はどのように除菌するの?
先述した通り、ピロリ菌は胃癌や胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃炎など様々な疾患の原因となります。
胃がんの方の9割9分はピロリ菌感染が関係していると言われています。
その為、検査でピロリ菌感染が確認された場合、除菌治療が必要になります。
具体的には、2種類の抗生剤と胃酸を抑える薬を1週間内服します。副作用として、抗生剤の作用が強い為、身体に必要な腸内細菌も一緒に除菌されてしまうことで下痢になる方が多いですが、その場合は内服を続けてください。
また副作用として味覚異常が出ることもありますが、こちらも飲み続けていただいて問題ありません。
いずれの副作用も、抗生剤の内服が終了すれば自然に治まりますが、途中で内服を中止してしまうと耐性菌(抗生剤が効かない強い菌)の原因となる可能性があります。
まれに抗生剤による強いアレルギー症状(アナフィラキシー)が出ることがあります。38.5℃を超える発熱や血便、蕁麻疹や呼吸困難、血圧低下、意識の混濁など重篤な症状が出る場合は即座に内服を中止し、医療機関を受診してください。基本的には発がん性物質であるピロリ菌の除菌が最優先です。
除菌治療により、9割の方がこの一次除菌で除菌成功します。除菌成功したかどうかは抗生剤内服終了後4週間以降で判定可能です。
当院ではより正確に判定するため、通常8週間以降で便検査による判定を行います。万一、一次除菌で除菌失敗した場合は薬剤を変更して二次除菌、三次除菌に進みますが、三次除菌は保険診療ができなくなるので注意が必要です。
時々、他院でピロリ菌感染を指摘されたが除菌治療をしていない、または除菌治療はしたがその後除菌成功したかどうかの判定はしていないという患者様もいらっしゃいますが、先述した通り、ピロリ菌は発がん性物質です。
感染が確認されたら確実に除菌する必要がある為、感染が確認できている場合は迷わず除菌、そしてしっかりと除菌できたかどうかの判定をしましょう。
ピロリ菌に感染すると、胃酸の分泌が抑えられます。
その為、除菌によりピロリ菌がいなくなると、胃酸の分泌が増えて逆流性食道炎(胃酸が逆流し、胃の入口に炎症が起きる)を発症し、胃の不快感や痛みなどの症状が出ることがあります。
不快な症状ですが、こちらは薬や生活上の工夫により改善可能です。症状でお困りの際は是非ご相談下さい。
一度除菌すれば安心ですか?
国内での再感染率は0.1%と言われております。
大人になると免疫力がしっかりしているので、大量のピロリ菌が一度に胃内に入らなければ感染することはありません。
ピロリ菌の感染経路は経口感染。その要因の多くは上下水道等の衛生環境が関係していると言われています。
現在国内では上下水道が整備され、井戸水を日常的にそのまま飲む習慣は減ってきています。
例えば除菌後に海外(特に途上国)で生活をされて、生水を日常的に飲むような生活をされていれば別ですが、基本的に国内で生活をされ、井戸水を飲むような習慣がなければ、再感染の危険性はないでしょう。
また家庭内感染も5歳までは注意が必要ですが、その後は胃の機能が整うことから、大人になってから家庭内感染する可能性は低いです。
ただし、ご家族がピロリ菌に感染されていた場合、幼少期に家庭内感染し、気づかずそのまま大人になるケースはあります。
幼少期にピロリ菌に感染していたとしても、胃がんなどに罹患するのはある程度年齢が経過してからです。
除菌するにしても、年齢が若い方がピロリ菌による胃炎の範囲も狭く、軽症で済むことが多いです。
将来の為にも、ご家族にピロリ菌感染が認められた場合は大人になったら一度検査をすることをお勧めします。
一度ピロリ菌に感染した後、除菌することで3分の1程度まで胃がんのリスクを下げることができます。
それでももともと感染していない方より50倍も胃がんになるの確立は高いと言われています。除菌が成功した後も、ピロリ菌による胃炎は残ります。
残念ながら、除菌後にそこから胃がんが発生する可能性もあります。
その為、除菌前の胃炎の範囲にもよりますが、ピロリ菌を除菌した後も基本的には毎年胃カメラを受けることをお勧めします。
まとめ
以上、今回はピロリ菌についてお話させていただきました。
将来の胃がんや潰瘍等心配な病気の原因となり得るピロリ菌。感染が確認されたらできるだけ早く除菌する必要があります。自治体で費用を負担してもらえるがん検診でも検査可能です。症状がない時に「心配だから」と検査する場合は保険適応にならないため、費用も上がってしまいます。
お財布の負担を抑える為には、検診等を上手に活用し検査を受けることをお勧めします。
がん検診(伊奈町ご在住の方に限り)、胃カメラともに、当院でも検査可能です。
伊奈町以外にお住まいの方も、お住まいの自治体のがん検診でピロリ菌感染の疑いがある方の二次検診(胃カメラによる精密検査)は可能です。お心当たりのある方はお気軽にご相談下さい。
予防医療の時代、病気になってからの治療ではなく、時には健康診断やがん検診など身体のメンテナンスや病気の予防・早期発見に目を向け、将来のリスクを減らしていけるといいですね。